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西の横綱「仁多米(にたまい)」

西の魚沼……と呼ばれる地域があります。

それは、島根県奥出雲地方(島根県の北部に位置し、日本海に面した地域)にある奥出雲町(旧仁多町、横田町)です。

ここで栽培され出荷されるコシヒカリは「仁多米(にたまい)」と呼ばれ、新潟県魚沼産のコシヒカリに負けないくらい美味しいことから、このように呼ばれています。
その美味しさは、例えば食味ランキング(日本穀物検定協会主催)で最高位の特Aの獲得実績がある点や、毎年各地で開催される「米・食味分析鑑定コンクール国際大会」の最上位部門「国際総合部門」で10回以上の金賞受賞実績により、「ワールド・ライス・アワード・ゴールド10」にも認定されている点などからも伺い知ることができます。

美味しさの理由

奥出雲町で美味しいお米が生まれる背景としては、生産者のたゆまぬ努力はもちろんのこと、美味しいお米が育つ条件として「綺麗な水」「昼夜の温暖差」の2点も大きい要素です。

実は島根県に限らず、中国地方の中山間地(中国山地)では美味しいお米の産地があちこちに点在しています。

同じ島根県では飯南町や三瓶町・吉賀町などが知られています。
お隣の鳥取県では、大山のふもとにある江府町や、岡山に近い日南町などが有名です。
兵庫県では但馬地方がお米の栽培が盛んですし、広島県では庄原市が、岡山県では新見市が有名です。

いずれの地域も程度の差はありますが、冬には雪が降り、ミネラル豊富な雪解け水があります。そして標高が比較的高いので、昼夜の温度差が大きくなります。この温度差のおかげで、お米は日中の光合成によりでんぷんをため込み、しっかりと充実した米粒になるのです。

そういった名だたる中国地方の産地の中でも、飛びぬけて有名なのが「仁多米」なのです。

「仁多米」の課題とは?

さて、このように有名になった「仁多米」ですが、魚沼のお米と同じ課題があります。

それが「同じ魚沼産のコシヒカリでも玉石混合で、同じブランドでも味に差がある」というものです。
いくらブランド米とはいえ、それはどこまでいっても農産物の話。どうしても品質にばらつきが出ます。

産地の範囲については「魚沼の範囲って年々広がっている」というようなことはなく、「仁多郡≒奥出雲町(旧仁多町+横田町)」なのでそれほど齟齬は無いのですが、しかし問題は標高です。

これは、島根県に行くとよく聞くのですが、「海側は美味しくなく、山側は美味しい」ということで、そこには歴然たる差が生じているのです。奥出雲町という範囲に限っても、そこには標高差があります。奥出雲町の標高は200m~600mほどの幅があるため、一言で「仁多米」と言っても様々なのです。

ブランドイメージを損なわない取り組み

そこで産地では、ブランドイメージを損なわないように色々な取り組みを行っています。

例えば旧・仁多町と横田町では、この「仁多米」の価値を高めるために、平成 10 年に、集荷・品質管理・販売を一括して担う第三セクター「奥出雲仁多米株式会社」を設立し、生産農家や関係機関と一体となってブランド化を図ってきました。
栽培工程の一部を統一するのは難しいのですが、和牛による完熟堆肥を使い、化学肥料や農薬を減らすよう、ある程度の基準を設け、品質管理に腐心しています。

また各地では「仁多米+α」という形で生産者が独自のブランド米を立ち上げています。以前、小池精米店にお越しになったことのある「水土人(みどり)ガーデン有限会社」の安部さんは、50年近く農薬不使用でお米を栽培しており、その仁多米を「櫛名田姫米」として販売しています。
彼は前述した「米・食味分析鑑定コンクール」での実績が認められ「プレミアムライセンス・ベストファーマー」に認定されているほどです。その他、各地で「大峠源流米」「あいのはで干し米」「にたひかり」などのブランドを立ち上げ、仁多米の美味しさを維持すべく、生産者が努力を重ねているのです。

コシヒカリといえば、日本でいちばん多い生産量を誇るお米です。
普通に栽培しても十分美味しいのですが、「仁多米」はそのコシヒカリの中でもさらに美味しいお米になるように工夫に工夫を重ね、更なるレベルアップを図っているのですね。

皆さんもぜひ品種だけではなく、その栽培背景まで含めてお米を選んでみてください。

この記事を書いてくれた人:小池理雄(小池精米店三代目)
1971年原宿生まれ。明治大学卒業後、会社勤務を経て2006年に小池精米店を継ぐ。五ツ星お米マイスター。テレビやラジオ、新聞、雑誌、ネット等のメディア出演多数。
共著「お米の世界へようこそ!」(経法ビジネス出版)

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