知る人ぞ知るお米#3 栃木県のお米
今回は「知る人ぞ知るお米」シリーズの第三弾、
ひとつの銘柄をご紹介するのではなく、「栃木県のお米」をご紹介します。
栃木県といえば、大消費地「東京」にほど近いお米の生産県です。
米屋から見ると、「関東のお米」にはある程度のヒエラルキーがあり、千葉・茨城・栃木が上位に位置づけられる生産地です。
もう少し各県の情勢を見てみましょう。
千葉県は房総半島の温かい気候を利用して、早場米の生産が盛んです。特に新米時期になると「ふさこがね」や「ふさおとめ」といったお米が新米商戦をにぎわせます。
茨城県はとにかく「コシヒカリ」の生産が盛んです。
新米時期には「あきたこまち」が先行して出てきますが、それも一瞬のことで、あっという間に「コシヒカリ」一色になるのです。
栃木県はと言うと……茨城県よりも若干遅れるタイミングで新米が市場に出てきます。
そのため、新米時期ではこの二県と比べるとややインパクトが薄いのですが、しかし栃木県北部のコシヒカリは日本穀物検定協会が実施している「食味ランキング」で最高位の「特A」獲得の常連であり、産地としての実力は「知る人ぞ知る」なのです。
とちぎ米のラインナップ
栃木県は「コシヒカリ」だけではありません。
最近のテレビCMで聞いたことがあると思いますが、栃木県オリジナル品種として「なすひかり」「とちぎの星」というお米があります。
この二つ。
栽培地域が若干ずれていますが、最近流行りの特徴……大粒で弾力があり、粘りも甘味もある……という特徴を有しているため、いずれも「食味ランキング」で「特A」獲得の実績があるのです。
この「食味ランキング」とは、行政が新品種を開発するにあたって、必ずベンチマークとするほどの権威あるコンテストなのですが、「特A」はそう簡単に獲得できるものではありません。
言うなれば「高級ブランド米」の箔付けとなりうる称号です。
以前、こんなことを聞いたことがあります。
新品種を開発したある県庁の人が言うには「『特A』獲得は知事からの至上命題です……」だそうで、ここからも「食味ランキング」がどのような位置づけかお分かりいただけると思います。
なのに……栃木県のこの二つの品種は、どちらも高級ブランド米というよりは「あきたこまち」や「ひとめぼれ」クラスの代替として開発された品種であり、けして「高級ブランド米」という扱いではありません。
「なすひかり」はある生産者から「あんな米、たいしたことない。コシヒカリの方がずっとうまい!」と言われる始末です。
「とちぎの星」では「特A」獲得を受けて、県主催でイベントを開催しPR活動を行っていましたが、そのイベントでは有名中華料理人を招いて中華料理のレシピを紹介するだけで、炊飯についての話は一ミリも出ないという、かなり雑な扱いになっていました。
こんな事例に触れているだけに、筆者にとっては「栃木県は特定のお米に絞ったブランド米の構築に不慣れである」という印象を抱いています。
ただ、それこそが実は栃木県の「強み」の裏返しではないか? と思えるのです。
とちぎ米の独自的なPR方法
前述したように、最近テレビCMでとちぎ米をPRしていますが、あのように何か一つのお米にフォーカスするのではなく、栃木米全体についてPRしているのは、どのお米でもそれなりの高レベルの品質を実現しているからなのです。
狙わずとも獲得できる『特A米』が複数あるのは、「お米の産地としての実力が秀でている」からなのです。
宇都宮大学が開発した品種「ゆうだい21」
そして栃木県米のレベルの高さを垣間見ることのできるお米がもうひとつ。
最近「ゆうだい21」というお米が急速に各地で栽培され始めています。
このお米は県内の宇都宮大学が開発した品種で、全国各地で開催されるお米コンテストでは「常連」となっているお米なのです。
「ゆうだい21」の種籾はお金さえ払えば入手・栽培できるため、各地で見られるようになってきたのですが、なんと先日栃木県近隣の県で開催されたお米コンテストでは、決勝に残った上位5品種はすべて「ゆうだい21」という状態にまでなっているのです。
いかがでしょうか? このように栃木県では様々な品種のお米が、トップレベルで評価されていることから、お米の産地としてますます注目の地域なのです。
この記事を書いてくれた人:小池理雄(小池精米店三代目)
1971年原宿生まれ。明治大学卒業後、会社勤務を経て2006年に小池精米店を継ぐ。五ツ星お米マイスター。テレビやラジオ、新聞、雑誌、ネット等のメディア出演多数。
共著「お米の世界へようこそ!」(経法ビジネス出版)