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屋台グルメからスタート! にぎりずしはいつから食べられるようになった?

海に囲まれた日本は、いつでも新鮮な魚を味わうことができます。
火を通さずに魚貝類や肉を食べるいわゆる「生食」という文化は、カルパッチョのイタリアやフェの韓国など数は少なくても世界各国にありますね。

「生食」の中でもすしは、日本が誇る特別なごちそうです。
今回はにぎりずしにフォーカスして、誕生や漢字表記のナゾに迫ります。

すしはどこで生まれた!? ルーツあれこれ

日本人って本当にすしが好きですよね。
すしに関するアンケート(※)によれば、なんと日本人の9割がすしが好きと回答していました。
しかし、意外にもすしのルーツは日本ではないようです。

例えばすしの起源を中国としている説では、中国最古の辞典とされる「爾雅(じが)」という本に、すしの記述を認めています。「肉謂之羹、魚謂之鮨」とあり、すしとは魚肉をすりつぶして煮込んで作った調味料のようなものと解釈されています。

また、すしは東南アジアの民族の魚肉保存食がルーツだという説もあります。高地に暮らす民族が手に入れることの難しい魚肉を長期間保存するために、自然発酵させたものがすしだというのです。

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奈良時代から始まった、日本のすしストーリー

それでは、すしはいつ日本に伝わったのでしょうか。

すしの記述が現れた最も古い資料は、今からさかのぼること1200年以上、718年に制定された「養老律令」といわれています。

ここで言うすしとは、いわば魚の漬物のようなもので、保存を目的とするものでした。ご飯と塩にコイやフナなどの川魚を混ぜてから、重石を置いて熟成させると独特のうま味とすっぱさが生まれます。

発酵したご飯はどろどろに溶けてしまうので、魚だけを食べます。このように魚をごはんと塩で発酵させた食べ物を「熟(な)れずし」と呼び、すしの原型となりました。今でも滋賀県名産の鮒(ふな)ずしが、このスタイルを残しています。

「魚だけじゃなくご飯も一緒に食べたい!」
そんな願いがあったのでしょうか。現代のように魚とご飯を一緒に食べるスタイルになったのは、室町時代頃といわれています。熟成期間を短くすれば魚はどことなく生々しいけれど、ご飯はほどよい酸味がついておいしく食べられます。

こうしてすしは生っぽい魚と酸味のあるご飯を一緒に食べる「生なれずし」に発展したのです。

粋な江戸っ子に大人気「にぎりずし」の誕生

町人を中心に様々な文化が花開いた江戸時代、庶民にも酢が調味料として広まると「すし屋」なるものが現れます。

箱に酢で調味したご飯を詰めてから魚を乗せ、その上に重しを置いて数時間後に食べるという「早ずし」の登場です。酢を使うようになっても、やっぱりすしは漬けるもの。熟成させて味の調和を図る時間がまだ必要でした。

江戸っ子といえば、粋でせっかちで見栄っ張り。
そんなイメージがありますが、侍や職人たちで活気づく江戸の町では、手軽に食べられる蕎麦やてんぷらなどの屋台が人気でした。

そこですしもすぐに食べられる屋台で売られるようになります。
ここで出されるのは、手で握った酢飯に江戸湾で採れた新鮮な魚貝類をそのまま乗せるだけの「にぎりずし」でした。現代のような一口サイズではなくおにぎりのような大きさで、お腹が空いたときに手軽に食べられるファーストフードでした。せっかちな江戸っ子の性分にあったのか、「江戸前ずし」と呼ばれるこのすしは大ヒットします。

町人が屋台で気軽につまんでいたすしは、格式を重んじる座敷でふるまわれる贅沢なメニューへ可能性を開きます。さらにあらかじめ注文を受けたすしを配達する出前の形態も現れ、幅広いニーズに応える料理となりました。

すしが日本の料理と言われる理由は、海外起源のすしが日本に伝わって独自の発展を遂げた結果なのかもしれません。
すしの歴史を辿ると、日本人に長く愛され人々の生活の中に浸透してきたことが分かりますね。

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なにが違う!? 「すし」=「寿司」=「鮨」=「鮓」

さて「すし」と聞いたら、どんな漢字が思い浮かぶでしょうか。
「鮨」「寿司」「鮓」と店によって表記が異なり、それぞれの意味が気になりますね。どうやら漢字表記はすしの歴史に関係があるようです。

そもそもすしの語源は、酸っぱいという意味の「酸(す)し」といわれています。魚とご飯を発酵させて自然の酸味で食べる「熟(な)れずし」には、主に「鮓」や「鮨」が使われてきたようです。

対して「寿司」は、幕末以降に「寿(ことぶき)を司る(つかさどる)」という、縁起がよい言葉を当て字として使うようになったといわれています。国内のすし店では多くがこの「寿司」を使っているので、現代では最も一般的な表記だと言えそうですね。

すしのグローバル化によって、アメリカで生み出されたカリフォルニアロールも「SUSHI」として新たに仲間入りを果たしました。今後も時代の変化に合わせて、新しい表記や食べ方が広がっていくのかもしれません。

まとめ

すしの歴史を辿っていくと、日本人のすし好きは古来から受け継がれてきたことが感じられます。
酢飯、ネタや成形も多種多様で、北海道の蝦夷前ずし、岩手県の前沢牛のすし、千葉県の飾り巻きずしなど、地域に根付いた郷土ずしもたくさんあります。テイクアウトやお取り寄せも充実しているので、気になるすしがあれば新しい美味しさを体験してみてはいかがでしょうか。

(※)
ミツカン情報ファイル>あなたの地元のお寿司は何位?全国郷土寿司人気ランキング発表!~寿司に関する実態調査~>株式会社 Mizkan Holdings

この記事を書いてくれた人:井上リエ
プロフィール:東京都在住。図書館司書を経て、ライター活動中。食べること料理すること、玄米とワインを愛する食いしん坊。
趣味はヨガ、旅行、ハーブの栽培で、健康と美容への探求心も旺盛。