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「冷めても美味しい」お米の話。

「冷めても美味しいお米、ありますか?」

お客さまから、本当によく尋ねられる質問です。もちろんこの質問は「ごはんをおひやにして食べたい」ということではなく、「炊飯からある程度時間が経過しても美味しく食べたい」という意味です。

冷めたご飯の需要は多い

こういった質問が多いことから分かるように、お米の消費形態は「ほかほかごはん」だけではなく「冷えたごはん」を食べる機会もそれなりに多い、ということです。
余談ですが、お米の味を評価するコンテストが日本各地で開催されていますが、こういったコンテストはいずれも「ほかほかごはん」で審査しています。つまり「冷えたごはん」の美味しさについて論じる、ということは業界内ではあまり一般的ではないのです。
面白いことに、世の中には「ほかほかの状態よりも、冷めてこそ美味しいごはんになる」品種があります。それは岩手県の「金色の風」という品種です。今後はそういった切り口でお米のプロモーションを展開してもよいのかもしれません。

さて「冷めても美味しいお米」には、一般的にはコシヒカリやミルキークィーン、ゆめぴりかなど「もっちり」としたお米が当てはまります。

ただ、これが「おにぎり向きか」と言われると少し違います。これらのお米はおにぎりに求められている特徴をカバーしていないからです。おにぎりのあるべき姿が、『ほどけやすく、米粒自体の味が具材に負けない。そして冷めても美味しい』とするのであれば、つや姫、いちほまれ、新之助のように粒立ちがよく、ねばり・旨味が秀でているお米が良いでしょう。

いかがでしょうか? こうなると「冷めても美味しい」でポイントとなるのは「比較的もっちりしているお米」が当てはまるようです。

しかし……上記のような品種でなくとも、小池精米店で扱っているお米はすべて「冷めても美味しいお米」です。

それはこういうことです。

こんなお米が「冷めても美味しい」

お米には「たんぱく質」が含まれています。「たんぱく質」は、稲に肥料を与えすぎると米粒に多く残る傾向にあります。「たんぱく質」の含有量が多いお米は硬めの食感になるため「あまり品質が良くない」とされています。
近年は夏が暑いため、稲は土の養分を多く消費します。
そのため肥料を多く与えなければ収穫量は落ちるのです。ただ、何事も「適正な程度」があります。米粒にたんぱく質があまり残らないように「適正な肥料の量」を見極めるには、生産者は夏の暑い盛りに田んぼに出て、稲の様子を観察しなければなりません。

小池精米店と付き合いのある生産者さんは言います。
「僕らが畦に残した足跡の数こそが、稲にとっての『肥料』なのです」と。
もちろんお米の味はいろいろな要素で決まるので、それだけの話ではないのですが、私の経験則ではこういった生産者さんのお米はたんぱく質が過度に残っていないため、すべて「冷めても美味しいお米」なのです。

いつものお米を食べるとき「冷めても美味しいか」を意識してみよう

お弁当にしろおにぎりにしろ、お米の味を特に意識しなければそのまま食べてしまいますが「料理によってお米の合う・合わないがある」を意識した瞬間に「あ、確かに違う」と皆さん気付かれます。

私は都内の和食専門学校で臨時講師をしていますが、授業でお米の食べ比べをします。こういった専門学校の生徒ですら、お米の食べ比べをする機会はありません。そして彼らのように食に関心の高い人であっても改めてこういった場を設けなければ「品種による味の違い」「料理との相性がある」という事実に気付かないのです。
そう考えると「お米が○○に合う・合わない」は実は新しい論点と言えるでしょう。
お米にはたくさんの品種がありますので、皆さんも今までとは違うお米を購入したら茶碗に盛るだけではなく「お弁当やおにぎりにしたときにどのように違ってくるのか」という視点で食べてみてください。
また違ったお米の世界が広がることと思います。

この記事を書いてくれた人:小池理雄(小池精米店三代目)
1971年原宿生まれ。明治大学卒業後、会社勤務を経て2006年に小池精米店を継ぐ。五ツ星お米マイスター。テレビやラジオ、新聞、雑誌、ネット等のメディア出演多数。
共著「お米の世界へようこそ!」(経法ビジネス出版)