[郷土料理シリーズ]カラフルでヘルシーなベジずし、高知県の郷土料理「田舎ずし」
郷土料理とは、古くからその土地に伝わる料理。
地場で採れる食材をおいしくいただくための知恵の宝庫です。
第2回目の今回は、高知県の「田舎ずし」をピックアップ!
おすしといえば、すし飯にフレッシュな海の幸をネタにしてのせた料理ですが、田舎ずしは旬の野菜を使うのだとか……?
海と山に囲まれた高知県で「田舎ずし」がデビュー
私たち日本人が大好きな国民食といえば? と聞かれたら、多くの人が「おすし!」と答えるのではないでしょうか。
おすしと言えば、一般的には「握りずし」が思い浮かぶかもしれませんが、それ以外にも多くのおすしが存在しています。
高知県には「土佐ずし」と呼ばれる、伝統的に作られてきたおすしがあります。高知県は北側を山々に南側を太平洋に囲まれた、山の幸と海の幸に恵まれた土地です。そのため各地で四季折々の食材を扱って、ローカル色も豊かなたくさんのおすしが産まれてきました。
「田舎ずし」もその一つ。山側の土地では魚や海苔が手に入りにくかったため、たけのこ・しいたけ・りゅうきゅう(ハスイモの茎の部分)・みょうがなど、山の食材を使っておすしを作ろうと考えたのが始まりでした。
最大の特徴は、「ゆの酢」と呼ばれる地場の柚子や仏手柑などの果汁をすし飯に使うことです。
酸っぱい味わいは味覚のアクセントとなるので、魚などのたんぱく質がなくても、また必要以上に塩分を効かせなくても満足のいく味わいとなります。さらに柚子と米酢の2つの酸味を混ぜ合わせれば、味に奥行きが生まれます。
こうして「ゆの酢」が香る爽やかな味わいと素朴で可愛らしい見た目の「田舎ずし」は、新鮮さと懐かしさで人気を博し、行事食へと昇華したのです。
おおらかな高知県民は宴会で「田舎ずし」を食す
高知県民は、冠婚葬祭、神事や節句など何かと理由をつけて、親戚や友人などお客さんを招いて宴会をするのが好きなようです。
土佐弁では宴会のことを「おきゃく」と呼び、招く側も共にお酒を飲みごちそうを食べながら楽しむという、おおらかなおもてなし文化があります。
この「おきゃく」の席に並ぶのは、様々なごちそうを一つの大きなお皿に盛り付けた「皿鉢(さわち)」と呼ばれる料理です。
ごちそうと言えば、おすし。「田舎ずし」もこの「皿鉢」の料理としてふるまわれてきました。
ごちそうの盛り付けは第一に色目が大切と考え、たけのこの黄色、しいたけの黒色、りゅうきゅうの緑色など、土地の食材がバランスよく並びます。
地味になりがちな山のおすしを華やかにしようと、酢漬けにしたみょうがの赤色が彩りとなって美しさを引き立てます。
「皿鉢」を囲みながら食べたいものをたくさん盛って、みんなでワイワイと楽しむ。土佐流のにぎやかで自由なスタイルにも「田舎ずし」は欠かせないのですね。
味はもちろん、見た目も大切「田舎ずし」のレシピ
そんなわけで魅力的な田舎ずし、実際に作ってみることにしました。
材料とレシピはこちら。
【 材料 】2人分
☆すし飯の材料
・お米 2カップ
・水 2カップ
☆合わせ酢の材料
・柚子(ゆず)の絞り汁 大さじ4杯
・砂糖 大さじ2杯
・塩 小さじ1杯
☆すしネタの材料
・干ししいたけ 5枚(小さめ)
・板こんにゃく 1/2枚
・茹でたけのこ 50g程度(半パック)
・みょうが 2個
・きゅうり 1本
・めんつゆ 大さじ3杯程度
・水 大さじ3杯程度(めんつゆと同量)
・すし酢 大さじ4杯程度
【 作り方 】
(1)炊いたお米に合わせ酢を混ぜて、すし飯を作る。
(2)すしネタを作る。
こんにゃくずし
・板こんにゃくは2等分に切る。それぞれを半分の薄さに切り、切れ目を入れて袋状にする。
・お湯で30秒程度茹で、水気を切っておく。
しいたけずし
・干ししいたけは、水でもどしてからいしづきを取る。
たけのこずし
・茹でたけのこの内側の筋を切り取り、縦半分に切る。
めんつゆ・同量の水・下ごしらえをしたこんにゃく・しいたけ・たけのこを鍋に入れて火にかける。沸騰したら弱火にして15分程度煮る。そのまま冷まして味をしみこませる。
みょうがずし
・みょうがは縦半分に切り、内側の真ん中に切れ目を入れる。
・すし酢に漬けておく。
きゅうりずし
・きゅうりはピーラーで皮をむき、2等分に切ってから、縦に薄く切る。
・すし酢に漬けておく。
(3)おすしを握る。
・こんにゃくずしは、切れ目にすし飯を詰める。
・しいたけは、裏側からすし飯をのせて丸く握る。
・たけのこずしときゅうりずしは、巻きすにラップを敷いてからネタの上にすし飯をのせる。巻きすで形を整えてから切る。
・みょうがずしは、裏側からすし飯をのせて握る。
\ 作り方のポイント /
土佐名産のりゅうきゅうが売っていなかったので、緑色の野菜のきゅうりで代用しました。
すし飯が手にくっつきやすいので、適宜手に合わせ酢をつけながら作業を進めます。ぎゅっと押しつけるようにして握ると、すし飯とネタがなじみやすくなります。
本来ならしいたけ、たけのことこんにゃくは、食材にあった味つけと調理法で別々に煮ていきますが、今回は一緒に煮ました。味つけは、めんつゆだけです。家庭で作る料理なので、手間なく簡単に。
旬の野菜をたっぷり使った「田舎ずし」。
やわらかさや歯ごたえの異なる食材を使うことによって、食感の違いが味わえます。柚子が効いた甘酸っぱいすし飯はそのまま食べてもいいくらい、口あたりが良くて繊細な味わいでした。それでいて甘辛く煮た野菜はもちろん、酸っぱい野菜も受け入れてくれる器の大きさも持ち合わせています。
煮物のすしだけでは何となく色が足りないように感じましたが、きゅうりとみょうがを並べることで、とたんに彩り鮮やかに。完成された美しいビジュアルは、料理に向かう気持ちを楽しくさせてくれます。ひとつのお皿の中に、お米とその土地の食を支える材料が入っているのも頼もしいですよね。
「田舎ずし」は、カラフルでフォトジェニックな仕上がりと味を楽しめる料理。酸っぱい味わいは、夏の暑い時期でも口の中がさっぱりとして食が自然と進むものです。
また魚介類が使われていないので、ベジタリアンやビーガンの方にも喜んでもらえると思います。
高知県ならではの「田舎ずし」が野菜の数だけ可能性を広げながら後世へ、また世界へ展開していくのもそう遠くはない未来かもしれません。
この記事を書いてくれた人:井上リエ
プロフィール:東京都在住。図書館司書を経て、ライター活動中。食べること料理すること、玄米とワインを愛する食いしん坊。
趣味はヨガ、旅行、ハーブの栽培で、健康と美容への探求心も旺盛。