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[どうしてそうなった!?]福、笑い

[どうしてそうなった!?]は、変わったお米のネーミングの由来についてご紹介していくシリーズです。

今回のお米は
福島県の「福、笑い」です。

「福、笑い」というお米……ご存知でしょうか?
この言葉をそのままGoogleで検索しても、正月に家族で楽しむ『あの遊び』しか出てきません。そう、まだまだ知名度の低いお米なのですが……。

実はこのお米。
福島県が2021年に満を持して市場に投入した期待の新品種なのです。

福島県は日本有数の米どころ。日本穀物検定が毎年実施している「米の食味ランキング」では最高評価「特A」を毎年多数獲得しています。
ただ……ご存知の通り2011年の東日本大震災における原発事故以来、福島県のお米は風評被害の影響で「コスパのいいお米」としての評価に留まっています。

開発期間は14年

「味が良いならそれなりの価格で売りたい」。
それが生産者の願いです。
その願いを実現すべくデビューしたのが「福、笑い」。

なんと14年もの月日をかけて開発された品種です。

「それなりの価格」で売るには味もさることながら、その価格に見合うだけの特別感が必要です。

例えば、栽培。
「福、笑い」は選び抜かれた生産者だけが栽培を許されています。
また県内でも気候が異なるため、各地で栽培マニュアルを作成して味や品質にばらつきが生じないような工夫をしています。

さらに、見た目。
パッケージは日本の田園の原風景をモチーフに、やさしい藍色のグラデーションと手書きのタッチにより、陶器の茶碗のようなあたたかみのあるものになっています。
「パッケージと、ブランド米としての世界観が、デザインとしてまとまっている」ということで、グッドデザイン賞を受賞しています。

ネーミングに込めた願い

そして、品種名。
県内外から応募があった6,234点の候補の中から、福島県のクリエイティブ・ディレクター箭内道彦氏や、お米マイスター・料理人・流通関係者などから構成された委員会での討議を経て、「福、笑い」という名称が決定しました。

「つくる人、食べる人、みんなが笑顔になり、幸せになりますように」
……そのような願いが込められています。

ちなみに……正式品種名は「福笑い」で、ブランド名が「福、笑い」です。
この読点がつくかつかないかが大きな違いなのですね。実は法律上、品種名に読点がつくことはNGとされています。そのためお米のパッケージを見ると、裏面にある品種名記載欄には「福笑い」とありますが、表のデザインを見ると「福、笑い」となっているのです。

絹のような食感と甘みが心地よい

そして肝心の味ですが……。
実は私は「福、笑い」をデビュー前に試食したことがあります。代理店の市場調査に協力したのです。ところがあまりに酷い味だったので「福島県はマジでこのお米を売ろうとしているのか??」と驚愕したものです。
実は適当に精米したらしく、米粒がボロボロに割れていたことが後から判明したのですが……。
では「プロが精米した」実際の「福、笑い」はどのような味なのでしょうか?
小池精米店ではデビュー当初より取り扱っております。いくら福島県を応援していると言っても、美味しくないお米は売りたくありません。それにいくら美味しくても、世間には多種多様な品種があるため、「美味しい+特徴」がなければ売れません。

ところが……。

最近のお米は「コシヒカリ」に代表されるような甘くて粘りのあるお米、「つや姫」に代表されるような「外硬内軟」なお米、「ゆめぴりか」に代表されるような「もっちり系」、「ササニシキ」に代表されるような「さっぱり系」……だいたいこの方向でお米はカテゴライズできたのですが、「福、笑い」は違ったのです。

粒はしっとりしており、口の中から米粒が流れるのが早いのですが、いつまでもそのしっとりとした甘みが残っていました。全般的に旨味が優しいのですが、それはさっぱりではなく口内の表面を優しく刺激し、絹のような食感と甘みが心地よく残る……。
「福、笑い」は米屋にとっても「未体験ゾーン」なお米だったのです。
まだデビューしたてで知名度もイマイチですが、弊社では着実にファンを増やしています。
まさに「福島プライド」が具現化されたお米です。
ぜひ皆さんの舌で体験してみてください。

この記事を書いてくれた人:小池理雄(小池精米店三代目)
1971年原宿生まれ。明治大学卒業後、会社勤務を経て2006年に小池精米店を継ぐ。五ツ星お米マイスター。テレビやラジオ、新聞、雑誌、ネット等のメディア出演多数。
共著「お米の世界へようこそ!」(経法ビジネス出版)