お米にまつわる5つのことわざ
日本人の暮らしから生まれて、育まれたことわざ
「はじめちょろちょろ中ぱっぱ赤子泣くとも蓋取るな」。これはかまどで上手にご飯を炊くための昔ながらのメソッド。始めはとろ火で炊き中ごろは強い火加減で。途中で赤ちゃんが泣いてもどんなことが起きても、お鍋の蓋を取ってはいけないということをキャッチ―な言葉で表しています。
ことわざというのは、昔の人たちが暮らしていく中で生み出し育んだ知恵や教えを短い言葉で表したもの。文化の伝達において、生活全般に関わりながら人間の英知の結晶がことわざとして語り伝えらています。それらは簡単で言いやすく記憶しやすいというインパクトを持っているものが多いのが特長です。そのため会話の中でことわざを使うことによって、その内容を効果的に話し相手に伝えることができます。中でも食は暮らしの中で切り離せないものなので、食べ物に関することわざは多く存在します。
意外に知らない?お米にまつわることわざ
私たち日本人の主食は、お米。お米のご飯なしでは日本の食卓は成り立ちません。そのためお米に関することわざも多くあります。
例えば「青田買い」ということわざは、まだ収穫できない青い穂が実った田んぼを収穫量を見越して先買いすることです。企業が優秀な社員を採用するために、学生の内から人材を確保することを表しています。
恋愛模様をお米に関係づけたことわざもあります。
「足の裏の飯粒」については、意味を想像できる方も多いのでは。これは足の裏についた米粒が中々離れないことを男女の仲に例えたものです。
さらに「女房と米の飯には飽かぬ」は結婚した夫婦に関することわざ。妻と米のご飯は普段は特別にあれこれ言うことはないけれど、毎日暮らしていても飽きることはなく欠かせないという意味です。情熱で結びついた恋人たちが結婚して穏やかな愛情を育むさまは、昔も現代も変わりませんね。
「ひょうたんから駒」は、米の存在が隠されていることわざです。ひょうたんはウリ科の植物で、中央がくびれた独特の形をしています。中をくりぬいて乾燥させると殻が硬くなるので、昔は水やお酒を入れて水筒として使われていました。豊臣秀吉が馬印として使ったことで知られています。このひょうたんから駒(馬のこと)が出てくるというのは、現実にはありえないことが起こること、思いがけない結果が得られることを言います。
ルーツは「賢愚経」に収められているすずめの恩返しの話です。ある日、傷ついたすずめを助け手当をしたおばあさん。傷が回復したすずめは植物の種を落として飛んで行きました。その種を蒔いたところひょうたんが沢山実をつけ、そして熟れたひょうたんの実からはお米がザクザクと出てきたという話です。これが武士の時代に中から出てきたのは馬に変わったと言われています。おばあさんにとっては米が武士にとっては馬が、生活の基本とも命とも言うべき存在であることが分かります。
お米のことわざで、日本の文化を再発見!
日本には四季があり、山脈があることで美味しい水が湧きます。このため穀物はもちろん野菜、果物、魚とその土地でその季節でしか味わえない多様な自然の恵みがあります。その半面、凶作や自然災害の心配も常につきまといます。作物が穫れないことは命に関わることなので、自然を崇め敬意を表してきました。
日本人にとってかけがえのない食材がお米。お米に関することわざは人生のあり方をも教えてくれます。改めてお米に関することわざを見返してみると、人づき合いの心得や人間関係の在り方、生活のノウハウが垣間見えてきませんか?何百年にも渡る先人の優れた知恵は、令和の今に継承されています。日々の食事の背後にある日本文化や日本人の感性の豊かさを、この先も守り続けたいものです。
この記事を書いてくれた人:井上リエ
プロフィール:東京都在住。図書館司書を経て、ライター活動中。食べること料理すること、玄米とワインを愛する食いしん坊。
趣味はヨガ、旅行、ハーブの栽培で、健康と美容への探求心も旺盛。