[どうしてそうなった!?]おいでまい
[どうしてそうなった!?]は、変わったお米のネーミングの由来についてご紹介していくシリーズです。
今回のお米は
香川県の「おいでまい」です。
「四国で美味しいお米?
しかも香川県で??
香川県は『うどん県』だろう?」
香川県に美味しいお米がある、そんな話を聞いた一般消費者は(口に出さずとも)、恐らくこういった反応をすると思います。
米屋も同じです。
小池精米店のような東京の米屋にとって、西の産地はあまり縁がありません。それでも近畿や九州のお米は時々目にしますが、四国となると高知県のお米が新米時期に少し出回るくらいです。
弊社は全国のお米を取り扱っていますが、それでも四国のお米部門? で強い県は愛媛県と高知県です。
香川県となると……なかなかピンと、どころか「そもそもお米って栽培しているの?」というレベルです。
そういった私の(恥ずかしいくらいまでの)「盲」を解いてくれたのが、「おいでまい」なのです。
「おいでまい」とは
「おいでまい」は讃岐弁で「いらっしゃい」の意味。
「香川県で生まれた新しいお米を多くの人に食べてほしい、また、食べに来てほしい」との願いを込めて、やわらかい讃岐弁で表現しています。
当然「まい」は「米」にかけてます。
「おいでまい」は香川県農業試験場が県の気候・風土に合わせて開発し、2014年(平成26年)に品種登録されたブランド米です。その実力は、間違いなく「美味しいお米」にカテゴライズされます。
米の食味ランキングにおいては最高ランクの「特A」を通算5回獲得しています。主催の日本穀物検定のウェブサイトによると、1989年(平成元年)以来、四国で初めて「特A」を獲得したのが2013年(平成25年)の「おいでまい」だったのです。
当時は「つや姫」「ゆめぴりか」の二大品種が鮮烈デビューした後でしたが、新品種が乱立している時代に突入するよりもやや前の時期で、それだけにインパクトは強烈でした。
「おいでまい」の特徴
「おいでまい」は炊飯すると、まず米粒の白さが目立ちます。喫食するとしっかりした歯ごたえで、食べ応えがあるお米です。
ただ個人的には……旨味という点ではやや物足りなさもありましたが、それでも十分に美味しいと言えるお米でした。
栽培面では丈が短く倒伏しずらく、暑さに強いため高温障害が出にくく、より品質の良い米が栽培できる……という特徴があります。
「育てやすいし、味も申し分ない。これで売れないわけがない」
そう思いました。
「特A」を獲得した翌年の秋、香川県は職員による「都内米屋への営業」を展開しました。その際、弊社にもお越しいただきました。
「四国初の『特A』米」ということで大変興味を持ったことを覚えています。
……時は流れ、鮮烈デビューから10年近く経った2022年(令和4年)。
県のウェブサイトによると、都内で取り扱っている米屋は3店舗のみ。都内には800店舗以上の米屋があるので、あまり多いとは言えないようです。
香川県のお米事情
ご存知の通り、香川県は日本で最も面積の狭い都道府県で、かつ、米の生産量もそれほど多くありません。そういった事情からなのか、いつしか「新品種乱立時代」に埋もれてしまった感があります。
しかし私は思うのです。
ブランド米は、無理に量を増やす必要はありません。
無秩序に増やしても品質管理が追い付きません。
その結果、美味しくない「おいでまい」が出回るようになれば、それこそブランド米にとって致命的です。
急ぐことはありません。美味しい「おいでまい」を安定的に、しっかり継続して、マーケットに出すことの方が大事です。むしろ「香川県に行かないと食べることのできない逸品」としての「おいでまい」の位置付けも「あり」でしょう。
……前述した「都内米屋への営業」で弊社にお越しになった職員の方は帰り際に「ぜひとも香川に遊びに来てください!」と言って「うどんマップ」を置いていきました。
……「おいでまい」も県民にとってそういった立ち位置にまでなれば、自然と県外の人からも求められるレベルになっていると思います。
この記事を書いてくれた人:小池理雄(小池精米店三代目)
1971年原宿生まれ。明治大学卒業後、会社勤務を経て2006年に小池精米店を継ぐ。五ツ星お米マイスター。テレビやラジオ、新聞、雑誌、ネット等のメディア出演多数。
共著「お米の世界へようこそ!」(経法ビジネス出版)