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[どうしてそうなった!?]ゴロピカリ

[どうしてそうなった!?]は、変わったお米のネーミングの由来についてご紹介していくシリーズです。
今回ご紹介するお米は群馬県の「ゴロピカリ」です。

ゴロピカリ

これ、お米の名前です。一度耳にすれば忘れない名前です。
ただ、一般消費者の皆さんがよく口にする「ブランド米」ではないのです。

「コシヒカリ」や「ササニシキ」といったブランドが確立されていないお米は「その他三類」「雑」といった、あまりに捨て鉢? な呼び方をされています。

このゴロピカリは、その「その他三類」の代表格です。

小学生による命名

出自は群馬県。
ご存知の通り群馬県は「空っ風」と「雷」が有名です。

そう、このゴロピカリはその「雷」に由来しているのです。
考えようによっては地域色を強く打ち出した品種名とも言えます。しかし私が知る限りでは「自然現象の音声に由来する品種名」はこのゴロピカリのみです。

ゴロピカリは「コシヒカリ」と「月の光」を交配して出来た品種です。

平成7年、公募により群馬県内の小学生により名づけられました。そのため正確に言うと「ピカリ」の部分はコシヒカリにも由来しているのです。

ただその扱いは「その他三類」であり、業界的では主にブレンド米の原材料に使われています。名前のインパクトの割にはあまりな扱いですが、どうしてこのようなことになっているのでしょうか?

米の生産量では全国32位

群馬県は米の生産量では全国32位(令和元年産の水稲収穫量)。
全国的に見て、あまり多い方ではありません。
その原因の一つに平野部が少ないことが挙げられます。

平成30年の群馬県内における農業生産額上位をみると、豚が409億円、生乳が218億円、キャベツが196億円、となっており、米は第4位で166億円にとどまります。

対外的なPRでは、例えば工芸作物のこんにゃく芋は「こんにゃくパーク」というテーマパークがあるように、群馬県の特産物として推されています。豚には「上州銘柄豚」として様々なブランドがあります。キャベツは「嬬恋村の高原キャベツ」が有名です。
ところがこれら農産物と比べると、お米はあまり大事にされてない感があります。

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お米の食べ比べで、ブレンド米を出品!?

わたしには忘れられない出来事があります。
以前、ある企画で各都道府県を代表するお米の食べ比べをしたことがありました。各都道府県が「これぞ!」と思う品種を出してきたのですが……群馬県だけが「単一銘柄では自身がない」という理由で、何と「ブレンド米」を出してきたのです。
そこからも如何に群馬県がお米に対して後ろ向きかが分かります。

そんな群馬県内のお米のなかで、最も生産量が多いのが「ゴロピカリ」です。ただこういった県の主要品種が「その他三類」となること自体、実は関東地方では珍しいことではありません。

関東各県で栽培されるお米の多くは首都圏へ出荷されます。首都圏ではレストランやホテルなど外食産業が多く、そこではあまり値段の高いものは敬遠されます。
関東各県はそういったニーズに応えるため比較的安い「その他三類」を多く栽培しています。例えば茨城県ではゆめひたち栃木県ではとちぎの星千葉県ではふさおとめ……そして、群馬県ではゴロピカリがそれに当てはまります。
「ゴロピカリ」は名前にインパクトがあるがゆえに注目されやすいのですが、その立ち位置自体は珍しいものでは無いのです。

群馬県の北側は新潟県魚沼

では群馬県のお米は大したことないのか、というと決してそのようなことはありません。

群馬県の、特に北部中山間地は美味しいお米の名産地です。
沼田市や川場村、みなかみ町では各種コンクールで実績を挙げたコシヒカリが新潟コシヒカリに負けない値段で販売されています。

地図を見てみると先ほど挙げた川場村は尾瀬国立公園に隣接しており、水がきれいな場所です。群馬県の北側は新潟県魚沼と隣接しております。

なるほど確かに大規模な稲作は展開されていませんが、美味しいお米が出来る産地としては日本有数の地域を抱えているのです。

どの県でも高級米ばかりを栽培しているわけではありません。様々な価格帯のお米をバランスよく栽培しながら持続可能な農業を行っています。

ぜひ皆さんには「ゴロピカリ」をきっかけに群馬県各地の美味しいお米にも目を向けていただければと思います。


この記事を書いてくれた人:小池理雄(小池精米店三代目)
1971年原宿生まれ。明治大学卒業後、会社勤務を経て2006年に小池精米店を継ぐ。五ツ星お米マイスター。テレビやラジオ、新聞、雑誌、ネット等のメディア出演多数。
共著「お米の世界へようこそ!」(経法ビジネス出版)


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