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[どうしてそうなった!?]森のくまさん

[どうしてそうなった!?]は、変わったお米のネーミングの由来についてご紹介していくシリーズです。

今回のお米は
熊本県の「森のくまさん」です。

森のくまさん

「このくまちゃんのお米が欲しい!」
弊社にお子さん連れのお客さんがいらっしゃいますと、お子さんがこう言いながらねだる……。この微笑ましいパターンが多いです。

そう、店頭に並んでいるカワイイ熊さんのパッケージ。
そのお米は「森のくまさん」です。
その可愛いネーミングから、たいていのパッケージは「くまちゃんの絵」が載っています。

常日頃から僕が生産者に伝えていること。
「お米を売るにはまず自分たちのお米の特徴を棚卸することが必要です。その中からセールスポイント、強みを見つけ出します。
そして消費者の購入意欲を喚起するべく皆様の熱意をもって訴えるのです!!!」……といったもっともらしい話も、このパッケージの前ではすべて吹っ飛んでしまいます。

それだけの破壊力のあるパッケージ。そしてネーミング。それが「森のくまさん」なのです。

米焼酎の多い熊本県

熊本県は九州随一の米どころ。熊本平野を中心に昔から稲作が盛んで、「肥後米」として有名です。豊臣秀吉が肥後国をわざわざ南北に分割して加藤清正と小西行長に分け与えたのは、その面積に割には米の生産量(石高)が高かったからです。また九州の焼酎分布を見てみると熊本県には米焼酎が多いことに気づきます。そこからも歴史的に米生産が盛んな地域であることが分かります。

熊本県といってもその範囲は広く、米の栽培適地で考えると平坦地域・山麓準平坦地域・高冷地域(山麓地域)に分かれています。山麓準平坦地域では「ヒノヒカリ」が、高冷地域では「コシヒカリ」が、それぞれ主力品種として栽培されています。

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ご存知の通り両品種とも全国的に非常に有名なお米です。
ところが残された平坦地域ではこれといった主力品種がありませんでした。

そこで開発されたのが「森のくまさん」。平成9年のデビューです。

その品種名は非常にインパクトがある名前で、誤解を恐れずに言うと「ふざけているのか?」と思うほどですが、しかし実は両親が「コシヒカリ」と「ヒノヒカリ」であり、その血筋は米の世界では「サラブレッド」と言えるでしょう。

その実力が認められたのが平成22年産でした。この年は九州のお米の当たり年。「森のくまさん」と並び、長崎県では「にこまる」が、佐賀県では「さがびより」が、熊本県と大分県では「ヒノヒカリ」が、併せて4品種5産地が日本穀物検定協会の食味ランキングで特Aを獲得したのです。
この5産地というのはその年の特A全体の4分の1に当たります。それまで特Aを獲得する九州のお米は毎年1~2品種・産地であったことを考えると、九州にとって大躍進の年になりました。

そしてその中で「森のくまさん」が一躍全国区になったのは、味ももちろんそうですが、そのネーミングに依るところが大きいと言えるでしょう。

名前の由来

名前の由来は、夏目漱石が熊本在住時代に、緑豊かな熊本のことを“森の都熊本”と表現しており、その「森の都(=もりの)」「熊本(=くま)」で「生産(=さん)」された、ということですが……。
さすがにそれを額面通りに受け取る人は少なく(笑)、どうしても童謡の世界と結びついてしまいます。そして公式パッケージの絵がまさにその絵であることから、県もそこを意識しているのです。

肝心の味ですが、口のなかでほどけやすく、粒に弾力があります。口に広がるうま味・甘みはしっかりと分かる味で余韻もあり、その割にしつこさはなくすっきりしています。
料理で言えば、炊き込みごはん・混ぜごはんに向いています。名前だけではなく味も十分に全国区を張れる実力と言えるでしょう。

そして……これに気を良くした熊本県は、続いて「くまさんの力」「くまさんの輝き」を連発してマーケットに出しています。「くまさんの力」も食味ランキングで特Aを獲得しています。くまさんの輝きはまだデビューして間もない(平成29年デビュー)ので、これからが楽しみな品種です。

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熊本県は近年自然災害が多発していますが、このように生産者さんは負けずに毎年「くまさんシリーズ」を丹精込めて栽培しています。熊本県産のお米というのはなかなか東京では手に入りにくいので、ぜひ「くまさんシリーズ」の食べ比べをしに、熊本県まで足を延ばしてみてくださいね。

この記事を書いてくれた人:小池理雄(小池精米店三代目)
1971年原宿生まれ。明治大学卒業後、会社勤務を経て2006年に小池精米店を継ぐ。五ツ星お米マイスター。テレビやラジオ、新聞、雑誌、ネット等のメディア出演多数。
共著「お米の世界へようこそ!」(経法ビジネス出版)


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