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お米の値段が上がった理由とは

「お米の値段が上がっている! 昨年の秋に比べると5割~8割ほど上がっている!! これは大変だ!!!」
……私もいくつかのメディアから取材を受けましたが、5月下旬から6月上旬にかけて大々的に報道されていましたので、皆さんも少しは耳にしたと思います。

お米の値段が上がるのは、
単純に「お米が足りない」からです。

お米は農産物ですから、数が足りなければ値段は上がります。
野菜や魚と同じなのです。

ただ政府としては若干見解が異なるようです。

「平成の米騒動」のときのように、本当にお米が足りなければ政府は備蓄米を放出します。しかし政府の見解は「諸々のデータを見ても需給ひっ迫とはなっていない」というスタンスです。

確かにスーパーの棚からお米が無くなったわけではありません。
若干値上がりしていたり、種類が少なくなったりはしているものの、普通にお米は置いてあります。

しかし一方で報道にあったようにお米(玄米)の値段は上がっており、中には「品切れ」を起こしているお米があるのも事実です。

これは一体どういうことなのでしょうか?

それは「無いところは無いが、あるところにはある」からなのです。

相対取引とスポット取引

お米の取引は大きく分けて二つあります。
相対取引スポット取引です。

前者は生産者と実需者が1対1で行う取引であり、後者は市場に出ているお米を選んで行う取引です。
相対の場合は年間使用分を予約または仕入れ済みのケースが多く、今の時点で値段が変わることはありません。いっぽう後者の方は市場原理に沿うことになるので、量が少なければ値段が上がるし、多ければ下がります。

実は今問題になっているのは、後者の方なのです。
そのため、スーパーの棚や大手外食店のメニューからお米が無くなっている……ところまでは事態が進んではいないのです。

ただ、普通であればスポット取引でお米の値段がそこまで高騰することはありません。

だからお米の流通量が普段よりは少ないことは、明らかではあるのです。

流通量が減少した背景

その背景には、

①昨年の酷暑でお米の収穫量量が減っていること
②同じく酷暑のためお米の品質が下がり、歩留まりが下がったこと(精米したときに白米の量が減る)
③インバウンドの影響でお米の消費が旺盛になったこと
④東京都や大阪府が非課税世帯にお米を無償で配布したこと
⑤昨年はくず米の発生が少なく、普段はくず米を使っている加工業者が普通のお米まで買い始めたこと

の5つがあります。
そしてその背景のさらに後ろには、

政府が長年続けてきた生産調整の効果
産地の高齢化による生産能力の低減

という要因が大きく横たわっています。

長い目で見ればお米の消費減の傾向は明らかであり、それに呼応する形で生産量を減らしてきたのが政府の政策です。そして農家の高齢化は今に始まった問題ではなく、なかなか改善していません。

その二つの効果が、今回のように「少しでもお米が無ければ高騰する」=「お米の生産量に『遊び部分』が少ない」という結果に出てきているのです。

そして物価高も相まって、お米は今年だけではなくその前から、年々値上りしています。新米が出ても高値傾向は引きずりますので(程度の差はありますが)、間違いなく今年の新米は昨年の同じ時期と比べて値段が上がるでしょう。

「お米は価格の優等生」といったニュアンスの記載がどこかのネット記事にありましたが、そのようなことはありません。
当たり前ですが、農産物の向こうには生産者の生活があります。現場では人件費・油代・資材代・肥料代等々、様々な経費が積もりに積もっています。

そう、生産者に言わせれば「今でもお米の値段は安い」のです。

私たちではお米は作れません。だからこそ私たち消費者はお米の値上がりについてはもう少し寛容であるべきでしょう。国民全体で産地を支えることが必要です。

……もちろん実質賃金が下がり続けている現状においては、生活防衛が必要なのは致し方ないことです。ただ、あまりに安いお米を買い求めることが本当に安定した食糧確保につながるのか……。

今回の一連の報道を機に、ぜひ皆さんにお考え頂ければと思います。

この記事を書いてくれた人:小池理雄(小池精米店三代目)
1971年原宿生まれ。明治大学卒業後、会社勤務を経て2006年に小池精米店を継ぐ。五ツ星お米マイスター。テレビやラジオ、新聞、雑誌、ネット等のメディア出演多数。
共著「お米の世界へようこそ!」(経法ビジネス出版)