無洗米ってどうなんでしょう?
「無洗米」というお米があります。
これは炊飯時にお米を洗わなくてもいい、というお米で、1991年に開発されました。
「炊飯時に『洗う』という工程が省かれた」ということで、時間に追われている共働き夫婦、人手不足で現場が回らない飲食店、野外キャンプで水を汚したくない人……等々が好んで活用しているお米です。
しかし…その味については、あまり良い評判を聞きません。筆者は講演時に参加者からよく質問を受けます。「あの……無洗米ってどうなんでしょう?」と。
質問者は、おずおずと、気恥ずかしそうに、そして罪悪感を抱えていそうな表情でお尋ねになるのです。
それはいったい、なぜなのでしょうか?
なぜお米を洗うのか?
その前に……
そもそも「なぜお米を洗うのか?」について触れてみましょう。
普段私たちが食べている白米は、もともとは玄米を精米したあとの形状です。「精白米」と言うのはそのためです。
玄米を覆っている「糠層」を除去したものが「精白米」なのですが、その「糠層」と「胚乳」(白米の部分)はきっちりと別れているわけではなく、幾重もの「層」になっているため、「精白米」にはまだ糠が残っているのです。これを「肌糠」と言います。
この「肌糠」を残したまま炊飯すると、ごはんがもったりとします。また糠臭さがてきめんなので、白米として食べるにはやや難があるのです。
そこでこの肌糠を除去する作業が「洗米」であり、肌糠をあらかじめ除去してあるお米が「無洗米」なのです。
いかがでしょうか?
ここだけを聞けば「無洗米」自体、何も問題がなさそうですが……。
旨み成分を多く含有する部分「亜糊粉層」とは
実は「無洗米」を語るうえで外せないのが「亜糊粉層(あこふんそう)」の存在です。これは「糠層」と「胚乳」の境目にある薄い層で、ここにはアミノ酸が豊富に含まれているため別名「うまみ層」とも言われているのです。
筆者のような精米店では、単に玄米から糠層を除去するだけではなく、いかにこの亜糊粉層を残すように精米するか、に気を遣っているのです。
精米しすぎた状況を「過搗精米」といい、「亜糊粉層」まで除去してしまっているのであまり美味しくないのですが、まさに無洗米はこの状況に近いのです。
そう、単に肌糠を取り除くだけであればいいのですが、この「亜糊粉層」まで除去している可能性が高いのです。
「可能性が高い」というのは、実は無洗米の方法によっては「そこまで影響はないだろう」という方法があります。
「無洗米」の選び方
「無洗米」の製造方法にはいくつかあります。
例えば「BG精米方式(肌糠同士をくっつけて取る方式)」、「タピオカ方式(タピオカを使って肌糠を取る方法)、「水洗い方式(水で一回洗って乾燥させる方式)」、「研磨式(お米の表面を軽く研削する方式)」などです。
このうち「研磨式」こそが「亜糊粉層」を削っている可能性が高い方式なのです。
「研磨式」は製造する機械のパワーによっては「肌糠」と「亜糊粉層」を落とす……だけではなく、お米が割れてしまう可能性もあります。そうなると余計に味に影響を及ぼすのです。
つまりは「味を損なっていない無洗米」を選ぶのであれば、どの方法で無洗米を製造しているのか、明記してあるものを選ぶことが大事なのです。
ただ……お米の味は「無洗米かどうか」だけでは決まりません。
産地や品種、生産者の腕など色々や要素で決まってきます。
たまたま「美味しくない無洗米」に出会ってしまったからと言って、その理由が「無洗米だから」とは限らないことは付け加えておきます。
加えて「無洗米」は炊飯が難しいお米です。どのような方式であっても普通の精白米よりは米粒の体積が減っています。そのため炊飯時に1合カップにお米を入れると、そのカップが想定している1合よりも多く米粒が入ってしまいますので、水の量を増やす必要があるのです。炊飯器に無洗米用の加水ラインや無洗米用の軽量カップがあるのはそのためです。
いずれにしても「無洗米」は普通の精白米とは違います。その違いをきちんと認識したうえで、お米の選択及び炊飯時の取り扱いに十分に注意して楽しんで下さい。
この記事を書いてくれた人:小池理雄(小池精米店三代目)
1971年原宿生まれ。明治大学卒業後、会社勤務を経て2006年に小池精米店を継ぐ。五ツ星お米マイスター。テレビやラジオ、新聞、雑誌、ネット等のメディア出演多数。
共著「お米の世界へようこそ!」(経法ビジネス出版)