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[誰がブランドを決めるのか?]つや姫編

山形県生まれの「つや姫」は、日本で最もブランディングに成功した品種の一つと言ってよいでしょう。

デビューは2009年です。
当初から目標としていた「コシヒカリを超える」……13年経ったいま、価格の面ではすでに達成していると言えます。
今では新潟県平野部で収穫される「コシヒカリ」よりも高い価格を保ち、昨今の米価下落局面においても値段は下がりません。ここまでしっかりと「価格の下支え」が出来ているのは、消費者からの信頼が大きいと言えるでしょう。

「つや姫」がブランディングで成功したのは次の4つによるところが大きいと思われます。その4つとは

①食味の管理がしっかりできていること。
②県レベルで常に盛り上げようと仕掛けをしていること。
③米屋のファンが多いこと。
④既存のお米との違いが明確であること。

以下解説します。

①食味の管理がしっかりできていること。

「つや姫」は山形県の生産者であれば誰でも栽培できる……わけではありません。

希望者が手を挙げて、県に認められてはじめて栽培が可能になります。

さらに栽培マニュアルの遵守を求められ、減農薬・減化学肥料の「特別栽培米」以上であることが条件なのです。
また、収穫した玄米の品質(たんぱく質の値)もチェックされます。
このようにハードルを上げることにより「売れるから」といって誰でも簡単に栽培できないようにしているのです。

②県レベルで常に盛り上げようと仕掛けをしていること。

山形県庁には「ブランド化戦略推進本部室」が置かれ、常に「つや姫」を盛り上げるためにイベントの実施や情報発信等を行っています。
以前はテレビCMまで流していました。
いくら美味しいお米であっても認知度が無ければ消費者は購入しません。そういった意味では最近CMが流れていないのは、十分認知度が上がったという判断でしょう。
また品質を重視するため生産量をいたずらに増やしているわけではないので、大々的にCMを流したがために「新米が出る前に売り切れた」を防ぐ意味合いもあるのでしょう。

③米屋のファンが多いこと。

山形県は「つや姫」のデビュー前からサンプルを米屋に送り、彼らの意見・感想を徴取し、販売戦略に役立ててきました。
デビューの年もまずは米屋を中心に販売を開始しました。
米屋などの専門店を重視する姿勢は、今振り返ると正しい選択肢だったと言えるでしょう。
その姿勢ははおおむね米屋から好印象を持たれています。
米屋でお米を買う人は日本全体で7%にも満たないのですが、一方、メディア等で米を語るのは米屋以外ではあまりいません。
米屋が常に「つや姫」の良さを吹聴するため、じわじわとした宣伝効果があるのです。

④既存のお米との違いが明確であること。

「つや姫」は分かりやすい味です。特に「コシヒカリ」との違いは明確です。
「つや姫」に限らず最近の米のトレンドは「外はパリッ、中はジューシー」なのですが、その走りがまさに「つや姫」でした。それまでは「コシヒカリ」に代表されるようにもっちり系が流行っており、「つや姫」のような食感がしっかりしつつ中身もうまみがぎっちり……というお米はありませんでした。お米のような淡泊な味でも違いが明確にわかるというのは差別化という意味では非常に大きいポイントです。

このような複数の要素が背景となり、いまでは「つや姫は間違いのないお米」として消費者から厚い信頼を得ているのです。

今では全国区になった「つや姫」ですが、その名前を決めるときの県民投票では3位した。ところが東京で実施したアンケートでは「つや姫」が1位だったのです。

この結果を受け、山形県は「つや姫」を採用しました。

こういったエピソードを聞くと、当初から消費者目線を大事にしていた県の姿勢が分かります。
「つや姫」が消費者に愛される理由も、分かりますよね。

この記事を書いてくれた人:小池理雄(小池精米店三代目)
1971年原宿生まれ。明治大学卒業後、会社勤務を経て2006年に小池精米店を継ぐ。五ツ星お米マイスター。テレビやラジオ、新聞、雑誌、ネット等のメディア出演多数。
共著「お米の世界へようこそ!」(経法ビジネス出版)