[どうしてそうなった!?]ちゅらひかり
[どうしてそうなった!?]は、変わったお米のネーミングの由来についてご紹介していくシリーズです。
今回のお米は
沖縄県の「ちゅらひかり」です。
「ちゅらひかり」……お米の名前には色々とありますが、その中でも特に「美しい響きのする名前」の代表格と言えるでしょう。
その名前から想像できると思いますが、沖縄県で栽培されているお米です。
よく「沖縄県でお米を栽培しているの?」と驚かれる方がいます。
しかし稲はもともとは温かい地域で生まれた作物です。亜熱帯地方の沖縄県は稲作に向いた環境下にあるのです。稲作は南方地域から様々なルートで日本に伝わっていますが、そのうちの一つが南西諸島から九州南部へのルートと言われています。
名前の由来
さて現在の沖縄県における稲作ですが、生産量は約2,090トン。これは47都道府県のなかでも46位の生産量であり、決して多いとは言えません。
また品種別の生産量でみると「ちゅらひかり」……ではなく「ひとめぼれ」が圧倒的に多く栽培されています。その割合は作付面積で見ると実に全体の81%。対して「ちゅらひかり」は16%でしかありません。
「ちゅらひかり」は独立行政法人「農業・食品産業技術総合研究機構(以下「農研機構」)」の東北農業研究センターで開発されました。
「ひとめぼれ」の子どもに当たります。開発段階での名前は「奥羽366号」でしたが、2003年に沖縄県で奨励品種に指定されたタイミングで「ちゅらひかり」と命名されました。
「ちゅら」とは沖縄県の方言で「美しい」と言う意味です。「ひとめぼれ」は「コシヒカリ」の子どもなので、「ちゅらひかり」は「コシヒカリ」の孫というわけです。
この美しい名前が付けられた経緯ですが……実ははっきりとした記録は残っていません。恐らく農研機構の品種開発者が考えて決めたと思われます。
温暖な気候を生かした二期作
しかし……そもそもなぜ沖縄県で東北地方を代表する品種「ひとめぼれ」が栽培されているのでしょうか? それは「ひとめぼれ」を主力品種とする岩手県との関係がその背景にあります。
沖縄県ではその温暖な気候を生かした二期作が可能です。
二期作とは1年に二回、同じ圃場で稲作を行うことです。二期作ができるため本土が冬の時期であっても、前倒しで稲作ができるのです。
1993年の大冷害で、岩手県では翌年の種籾が圧倒的に不足しました。そこで沖縄県の石垣島に来春までの種籾の増殖をお願いしたのですが、それをきっかけに「ひとめぼれ」の栽培が沖縄県全体に広まりました。
その後に出てきたのが「ちゅらひかり」です。「ひとめぼれ」よりも病気に強く、また台風が多く襲来する沖縄において必要な「倒れにくい」という特徴があるため、奨励品種として採用されました。
ただ前述のように「ちゅらひかり」は県内でもあまりメジャーではありません。小池精米店では毎年「都内で最も早い新米」と銘打って6月に石垣島の新米を販売しています。当初は「ひとめぼれ」だったのですが、「沖縄独自の品種の方がいい」と考え、生産者に「ちゅらひかり」の栽培をお願いしました。その際、意外と生産者が種を探すのに苦労をされていたのです。
味の特徴
沖縄県民の皆さんは島のお米より「ゆめぴりか」「つや姫」「コシヒカリ」といったお米を好むようです。島のお米については「ひとめぼれ」より前の時代のお米があまり美味しくなかったこともあり、関心が薄いようです。
ただ最近は一部の熱心な米屋の活動もあり、島のお米に注目する人が増えているそうです。「ちゅらひかり」はもっちり系ではありませんが、しっかりめの食感の向こうにきちんと旨みが広がるお米です。「これが島のお米なのか!」と納得できる特徴があります。
確かに「ちゅらひかり」は県外だけではなく県内においても知名度はまだまだのお米です。しかし新品種ブームの中で、お米の味の違いに関心を持つ人は徐々に増えています。そのような人たちが島の米「ちゅらひかり」に出会えば、その特徴のある味にきっと心惹かれることでしょう。
この記事を書いてくれた人:小池理雄(小池精米店三代目)
1971年原宿生まれ。明治大学卒業後、会社勤務を経て2006年に小池精米店を継ぐ。五ツ星お米マイスター。テレビやラジオ、新聞、雑誌、ネット等のメディア出演多数。
共著「お米の世界へようこそ!」(経法ビジネス出版)