ブランド米とはなんぞや
「ブランド米」。
よく聞く言葉だと思いますが、実はその定義はあいまいです。少なくとも何か法律でその定義が決まっているわけではありません。
最近、都道府県レベルの地方自治体から多くの新品種がリリースされています。その中でも私がはっきりと「ブランド米」と言えるのは、「つや姫」と「ゆめぴりか」です。
私は消費者向けにイベントを行うことが度々ありますが、その際に「知っているお米はどれ?」といった簡単なアンケートを取ることがあります。その際に必ず出てくるのがこの二つなのです。そう、それだけ広く知られているのです。
これらは各自治体が一所懸命ブランディングを取り組んできたため、「つや姫=山形県」、「ゆめぴりか=北海道」というイメージもしっかりと根付いています。ここまで新しい事例でなくとも「コシヒカリ」や「あきたこまち」といったブランド米も「コシヒカリ=新潟県」、「あきたこまち=秋田県」という図式が皆さんの頭には浮かんでくると思います。
そう「ブランド米」とは
産地とセットで語られることが多いのですが……。
しかし、冷静に考えてみると「コシヒカリ」は新潟県以外でも見ることができます。関東地方では茨城県や千葉県、栃木県でその栽培が盛んです。東北地方では福島県や山形県でも栽培されていますし、それこそ日本全国、どこででも栽培されているのです。
そして「あきたこまち」。名前からして明らかに秋田県のための品種にもかかわらず、全国各地で栽培されています。千葉県や茨城県、長野県、岡山県などあちこちで栽培されているのです。
冒頭の「つや姫」ですら、宮城県や島根県でも栽培されています。
ブランド米=産地なのか!?
こう考えると、実は「ブランド米」を語るうえで「産地」という概念はあまり関係ないことが分かります。
「コシヒカリ」や「あきたこまち」に関して言えば、どこかの特定の県が種子を囲い込むことをしなかったため、あちこちで栽培されるようになりました。その背景には、それらのお米が美味しく、比較的高く売れるという事実があります。
「つや姫」については山形県が権利を持っており、栽培したいと手をあげた自治体に種子を渡しているのですが、その手を挙げた理由は「つや姫が美味しく、十分に高く売れるお米である」という期待があるからです。
そう、「ブランド米」の前提として「それは美味しいお米である」という認識が広まっていることが大事なのです。そうでなければ栽培量が増えないからです。
B銘柄や雑銘柄とは
お米は他の農産物と同じで、品種が開発されればそれらしい品種名がつけられます。しかし品種名がつけられたからと言って、それが「ブランド」かと言われれば違うのです。
業界には「B銘柄」「雑銘柄」という言葉があります。これは「ブランド米」である「コシヒカリ」や「つや姫」と区別するためにつけられる総称です。例えば青森県産「まっしぐら」や群馬県産「ゴロピカリ」、埼玉県産「彩のかがやき」、福井県産「ハナエチゼン」などがそれにあたります。
これらは主に業務用で使われるお米で、味はそこそこ、値段もそれほど高くないのが特徴です。
「雑銘柄」とは言われないけれど「ブランド米と言えるかどうか」という微妙な立場のお米もあります。
地方自治体が開発したお米でそれは多いのですが、例えば茨城県産「ふくまる」、宮城県産「だて正夢」、石川県産「ひゃくまん穀」、富山県産「富富富」、愛知県産「あいちのかおり」、滋賀県産「みずかがみ」などがそれに当たります。
確かに地元では知られている(はず)なので「ブランド米」と言えなくもないのですが、都内のお客さんに説明する際には、例えば「富富富」をわざわざ「富山県生まれのブランド米で」と付け加えないといけないのです。
そのような説明が必要な時点で「あまり知られていないお米」である裏返しであり、とても「ブランド米」とは言えないのではと感じるのです。
つまり、ブランド米とは
ブランドとは「時間や対価を払ってでも得たい価値(強み)があり、その価値を活かしてファンを作ること」と、あるサイトに説明がありました。
そう考えると「ブランド米」とは「その美味しさに惹かれて大勢のファンがついているお米」のことであり、少なくとも開発した側が言い出すことではないことが分かります。あくまでもお客さんや小売りなどから、その美味しさとともにどこまで広く認知されているか、が「ブランド米」と名乗るうえでの大きなポイントになるのですね。
この記事を書いてくれた人:小池理雄(小池精米店三代目)
1971年原宿生まれ。明治大学卒業後、会社勤務を経て2006年に小池精米店を継ぐ。五ツ星お米マイスター。テレビやラジオ、新聞、雑誌、ネット等のメディア出演多数。
共著「お米の世界へようこそ!」(経法ビジネス出版)