[どうしてそうなった!?]いちほまれ
[どうしてそうなった!?]は、変わったお米のネーミングの由来についてご紹介していくシリーズです。
今回のお米は
福井県の「いちほまれ」です。
ここ数年、各地で色々な品種がデビューしていますが、その中でもっとも業界の注目を集めたのが、2017年にデビューした福井県のオリジナル品種「いちほまれ」です。
それは、この名前が決まる前の「コードネーム」は「ポストコシヒカリ」と言われていたからです。
実はあまり知られていませんが、「コシヒカリ」は福井県で生まれました。福井県の農業試験場で開発されたお米には「越南」と名付けられます。「コシヒカリ」のもとの名前は「越南17号」と言います。
「いちほまれ」も「コシヒカリ」と同じく福井県の農業試験場の生まれです。もとの名前は「越南291号」と言いました。
実は「コシヒカリ」の出自については諸説ありますが、福井県で生まれたのは確かです。
しかしながら……残念ながら一般市民の認識として「コシヒカリ」と言えば「新潟県」です。そう、福井県はせっかくの金の卵を他県に奪われてしまったカタチになっているのです。
福井県はお米の美味しい産地の一つとして有名です。「コシヒカリ」の生産量も多くあります。しかし県オリジナル品種で「コシヒカリ」並みの知名度と食味を持つものは……残念ながらありませんでした。
もちろん「コシヒカリ」の栽培を続けるというのも一つの方法です。
しかし知名度で「新潟県産コシヒカリ」の後塵に拝することは、価格面でも「新潟県産コシヒカリ」を超えることはできないということです。
それは生産者の収入面でも影響があります。
そこで開発されたのが「いちほまれ」です。
福井県は2016年に「ふくいブランド米推進協議会」を発足させました。
新品種としてデビューさせるお米を4つに絞り、その4種類を私のような五ツ星お米マイスターといった専門家に試食してもらい、意見を募りました。
そしてもっとも評価が高かった品種……「越南291号」が『ポストこしひかり』と決定したのです。
ちなみに私もその試食及び意見聴取に参加しました。当時の私のコメントは以下の通りです。
「粒の弾力と粘りを楽しむことができ、
旨みや甘みの立ち上がりの速さや広がりは申し分ないお米」
このコメントは今でも「いちほまれ」の公式ホームページに「米穀店K」として紹介されています。
新品種の名前の決定は、まずは2016年12月20日から2017年1月末にかけて行われた全国公募から始まりました。応募件数は10万7,652件にのぼりました。全国、そして海外からも応募があり、新しいお米に関する関心と期待がいかに高かったが伺えます。
その中から「ブランド米推進協議会」において第1次審査を行い、名称候補の絞り込みを行いました。
最終審査では、文章や言葉を駆使した自己表現に長けた福井ゆかりの作家の方などの有識者5名の方によって最優秀賞1点、優秀賞5点を選定。
その最優秀賞が「いちほまれ」だったのです。「日本一おいしい誉れ高きお米」という思いから付けられました。
最終審査で名称選定に関わった審査員からは、「福井県は、幸福度日本一の県であり、今回『いちほまれ』が誕生し、おいしいお米を食べられる福井県民の幸福度が、更に高まるのではないかと期待している。早く全国の消費者に届け幸せのおすそ分けをしてもらいたい」というコメントが出されました。ここからも福井県の新品種にかける期待の高さが伺えます。
2022年になり、いちほまれはその販売量を10,000トンに増やそうとしています。この「10,000トン」という数字はデビュー当時より福井県が目指していた数字です。高価格帯のお米として「つや姫」や「ゆめぴりか」と並び称されるために、最低限必要な数量と考えているからです。
名前の通り「日本一のお米」を目指す福井県のチャレンジは現在進行形で続いているのです。
この記事を書いてくれた人:小池理雄(小池精米店三代目)
1971年原宿生まれ。明治大学卒業後、会社勤務を経て2006年に小池精米店を継ぐ。五ツ星お米マイスター。テレビやラジオ、新聞、雑誌、ネット等のメディア出演多数。
共著「お米の世界へようこそ!」(経法ビジネス出版)