見出し画像

お米屋さんが教える「炊飯のコツ」

今回は「炊飯」の話ですが、「炊飯技術だけでは美味しいごはんには出会えません」ということを最初に確認しましょう。

・どの品種を選ぶのか。
・そのお米はどういった産地で、技法で栽培されているのか。
・今年の気候はどうであったのか。
・収穫後の乾燥・調製は丁寧に行われていたのか。
・精米は上手に行われているか。
・精米後の保管状況はどうなっているのか。


このように、ありとあらゆる場面で「お米の美味しさ」の分かれ道があります。一言で「美味しくなる炊飯のコツ」と言えるほど、実は単純な話ではないのです。
しかし……何事にも「程度」があります。あまり極端になると「お米を食べる」こと自体が「めんどくさい」ことになってしまいます。そうなると元も子もないので……今回は簡単にまとめてみました。

まず炊飯に使う白米は

・「米屋が精米したお米」であること。
・精米して2週間は経過していないこと(但し夏場)。
・密封容器に入れて空気を遮断し、冷蔵庫で保管していること。

この3条件を満たしていれば「良し」とします。

炊飯器具は「土鍋」をお勧めします。
「電気炊飯器」は限られた電力の範囲内で美味しいごはんに仕立てるための、日本の技術の粋が集まっています。
しかしそれでも直火の温度……約1,200度の熱量には敵いません。

そして「土鍋」であればその熱量を受け止めることができるのですが……炊飯器の普及率は90%超。これは電子レンジ、冷蔵庫と比肩するレベルです。そう考えると広く読者の皆さんにご参考いただくために、今回は「電気炊飯器」を使うことを前提に話を進めていきます。

ご存じの通り「電気炊飯器」はスイッチポン、であとは全自動です。そのため「炊飯のコツ」は「人の手が加わる場面」に限られます。
その場面とは、

①洗米   ②浸漬   ③ほぐし

の3つです。それぞれ説明しましょう。


炊飯のコツ その① 「洗米」

過去の記事『お米を美味しく炊く秘訣は「研ぐ」のではなく「洗う」こと。』で詳しく書いていますので、そちらをご覧ください。

炊飯のコツ その② 「浸漬」

最近の電気炊飯器は取扱説明書に「浸漬は不要です」と書かれています。
これは浸漬自体が不要なのではなく、浸漬時間も含めて「炊飯」となっているからです。器具を問わず浸漬はものすごく重要です。

ここで浸漬の二つの目的を確認しましょう。

一つは熱を十分に米粒に行き渡らせるためです。
水が熱伝導の役割を果たして、米粒の中までしっかり熱を伝えます。
熱が伝わることによりでんぷんがしっかりアルファー化(柔らかくなること)されるのです。
もう一つはでんぷんを糖化するための酵素「アミラーゼ」を活性化させるためです。アミラーゼは水に漬けることにより増え始めます。

そしてこの二つの目的を果たすために大前提となるのが「冷たい水を使うこと」です。実は冷たい水に長時間漬けた方が、より深く水が米粒の中まで浸透します。温かい水の方が早く浸透しますが、より深くとなると冷たい水の方が勝ります。

そして先ほど挙げたアミラーゼ。
水温が40~60度くらいで最も活性化されます。炊飯時にこの時間帯を長くするのがポイントです。
そのため冷たい水から炊飯を始めた方がいいのです。

なお事前に浸漬した場合は、電気炊飯器だと炊飯モードが変わる場合がありますので、取扱説明書をよく読んでください。

炊飯のコツ その③ 「ほぐし」

この工程は冷気を米粒に当てることにより表面をパリッとさせることが目的です。ほぐさないと食感が悪くなります。
ほぐすときは、まずしゃもじを立ててごはんを十字に切り4等分にします。そしてそれぞれのブロックを天地返しし、あとはしゃもじで「切る」ようにほぐします。
この工程では決してごはん粒を潰さないように注意が必要です。

電気炊飯器は確かに便利ですが、すべて機械任せだと調理としての面白みに欠けます。
今回ご紹介したように「人の手が加わるところ」を気を付けるだけで、更なる美味しさに昇華します。
是非ともご家庭で試してみてください。

この記事を書いてくれた人:小池理雄(小池精米店三代目)
1971年原宿生まれ。明治大学卒業後、会社勤務を経て2006年に小池精米店を継ぐ。五ツ星お米マイスター。テレビやラジオ、新聞、雑誌、ネット等のメディア出演多数。
共著「お米の世界へようこそ!」(経法ビジネス出版)