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米粉のパンやスイーツが流行る理由とは

最近、米粉を使ったパンやスイーツが増えてきているようです。

そうなると小池精米店へ「米粉ってありますか?」という問い合わせが増えますが……残念ながら弊社では取り扱いはありません。

米屋が「お米」を売ろうとすると、どうしてもお米の最大のライバル「パン」に対する「お米の優位性」を語る必要が出てきます。そしてその優位性のうち最も説明しやすい内容が「お米は粒で摂取するのに対し、パンは粉で摂取する」なのです。

「粒」は「粉」より太りにくい

つまりはこういうことです。

炭水化物を摂取後、体に吸収されるスピードは、穀物を「粒」で摂取した方が「粉」で摂取するよりもゆるやかになります。このスピードが早いと血糖値が急激に上がります。そうなると体内のインスリンが大量に分泌されます。インスリンは脂肪を溜め込む性質があるため、実は太りやすいのは「穀物を粉で摂取するパン」の方なのです。

そういった話を展開している手前、弊社では米粉は販売していません。

もし販売するとなると、自ら唱えている「お米の優位性」を捨てることになるからです(少し大げさですが)。

このように厳として存在する「パンに対するお米の優位性」。
しかし巷ではそれを否定する「米粉スイーツやパン」が流行っている……。
それはいったいなぜなのでしょう?

なぜ米粉スイーツが流行っているのか

その背景には、最近話題になることが多い「グルテンフリー」があります。

小麦に含まれている「グルテン」という、粘りのもととなるたんぱく質。パンのもっちり感はこのグルテンのおかげなのですが、⼩⻨に含まれるグルテンは消化しにくいたんぱく質の構造をしています。そのため、腸内環境に悪い影響を与える場合があります。

体調を改善するにはグルテンを断つこと。
これが「グルテンフリー」です。

そしてもう一つ。
ロシアによるウクライナ侵攻が大きな要因です。
この出来事を背景に小麦粉の値段が上がったことにより、世間は気付きます。「世界情勢にそこまで影響されずに安定供給でき、値段も比較的安定している『お米』って実は結構貴重な食べ物なのでは……」と。

米屋の私が言うのも何ですが……。
確かに穀物は粉状よりも粒状で摂取した方が太りません。
しかしそれだけです。
いっぽう、これだけ食生活が多様化し、身の回りに和・洋・中、どのジャンルの料理もあふれている現状において「小麦粉を使った料理は我慢して、米だけを食え」というのはやはり乱暴です。
私も米屋でありながらパンも食べますし、ビールを飲みますし、なんなら「ラーメン大好き小池さん」でもあります。そして当然ケーキなどのスイーツも大好きです。

「グルテンフリー」と「安定供給」の優位性を保ちつつ、でも小麦粉を使った料理を再現でき、さらに似てるようで違う味を実現できる素材……として「米粉」が評価されてきているのです。

製粉技術の移り変わり

日本では昔から「白玉粉」「上新粉」「道明寺粉」など「米を粉砕した食材」がありました。実際それらを使って白玉や和菓子といった和スイーツが作られています。
ただこれらは粒が大きく、パンやケーキを作るのに向いていませんでした。しかし近年、製粉技術の向上により、さらに細かい製粉が可能になり、さまざまな用途に使えるようになったのです。
米粉は小麦粉に比べ油を吸いにくいため、揚げ物やクッキーなどはサクサクの食感になります。また、米粉は水を吸収しやすいためケーキやパンはしっとりと仕上がります。
お米に含まれるデンプンの一種のアミロペクチンによって、もちもちの食感にもなります。

最近、私が出会った衝撃のスイーツ。それは米粉ではなく、生米を使って作るお菓子です。このレシピを作成した方によると「目の前にある生米からパンやスイーツを作ることが出来れば、原材料は自分の分かる範囲なので安心・安全だから」ということで開発されたそうです。
実際に「生米パン」を食べてみると「お米の味そのもの」が感じることのできる味で、ほぼ「お米」を食べているような、不思議な感覚を体験できました。

私は普段から「楽しくなければお米ではない!」と話していますが、米粉も含めたこういった展開こそが「お米の新しい楽しみ方」だと言えるでしょう。
そう考えると米屋が「米は粒で摂取しなければならない!」と考えるのも極めて偏狭な見方なのですね(笑)。

この記事を書いてくれた人:小池理雄(小池精米店三代目)
1971年原宿生まれ。明治大学卒業後、会社勤務を経て2006年に小池精米店を継ぐ。五ツ星お米マイスター。テレビやラジオ、新聞、雑誌、ネット等のメディア出演多数。
共著「お米の世界へようこそ!」(経法ビジネス出版)