[どうしてそうなった!?]ゆめぴりか
[どうしてそうなった!?]は、変わったお米のネーミングの由来についてご紹介していくシリーズです。
今回のお米は
北海道の「ゆめぴりか」です。
名前の由来
「ゆめぴりか」……ご存知、北海道を代表するブランド米です。
時々「ゆめピカリ」と言い間違える人がいますが、名前の由来を知ればもう間違えません。
「ゆめぴりか」は「夢」と、アイヌ語で美しいという意味の「ピリカ」をかけあわせて命名されました。名前は一般公募により3,422点の応募の中から選ばれました。
北海道には多くの品種がありますが、名前を決める際に公募を行うケースはそれまで2例しかありませんでした。
それだけ「ゆめぴりか」にかける北海道の期待は大きかったのです。
そこまで期待をかけられた「ゆめぴりか」の味は……?
筆者の感想です。
見た目の粒は大きく、照りも張りも申し分ありません。
口に入れるとごはんがほぐれて、粒が弾けます。ぷりっとして弾力があり、粒の表面に滲み出るおねばは、咀嚼する前からしっかりと口中にもっちり感を伝えます。
咀嚼するとでんぷんの粘りはしっかり奥歯にとどまり、でんぷんの甘みが口中を覆います。飲み込んだ後でも喉の奥から甘みが戻ってきます。
……そんなお米です。
食味ランキングでは最高位の特Aを毎年獲得!
かつて北海道のお米は「美味しくない」という評判が専らでした。「ゆめぴりか」はその評価を180度ひっくり返す実力があったのです。
「ゆめぴりか」は北海道上川農業試験場で育種されました。実は開発から4年目の試験で「収量」の面で不合格になっていましたが、「食味」が圧倒的に優れていたため、研究員は諦めずに保管していたのです。
再試験で見事に合格し、北海道のブランド米候補となりました。
当時、ブランド米の候補として「ゆめぴりか」を入れて3つありましたが、さらにそこからも選ばれ、晴れて北海道のブランド米としてデビューしたのです。
その選考過程において北海道はより消費者に近い専門家……米屋と寿司屋に意見を聞きました。
実はそういったアプローチはこの時が初めて。通常は味を食味計等の機械で判定し、あとは流通業者の意見を聞いて決める……という流れでした。
あえて専門家に聞いたのは、彼らに「機械では分からない、エンドユーザーに響くお米のストロングポイントを見出してくれるのでは」という期待があったからです。
「ゆめぴりか」がエンドユーザーの目を強く意識している姿勢はデビュー当時からしっかり守られています。
2009年10月に「ゆめぴりか」はデビューしましたが、その年の北海道は冷害でした。品質基準未達のお米が続出し、出荷できるのは全体の1割程度。しかし北海道はその品質基準を緩めず、あくまでも品質を守ることを第一にし、その1割だけの販売にとどめたのです。
そういった厳しい品質管理が実を結び、2010年の道外デビュー以来、日本穀物検定協会の食味ランキングでは最高位の特Aを毎年獲得しています。
道内各地の産地によって味が異なる「ゆめぴりか」
2011年、
「すいません、『ゆめぴりか』って何ですか?」
というフレーズとともに、全国CMが流されました。
そして2014年以降に採用されたマツコ・デラックスさんの破壊力により、一気にその名前は全国区となったのでした。
毎年「ゆめぴりかコンテスト」が札幌で開催されます。
その年に収穫された「ゆめぴりか」を産地ごとに分けて食味を競うものです。今まで5回開催されていますが、筆者はそのうち2回、審査員として参加しています。
よく「同じ『ゆめぴりか』なのに産地によってそんなに違うの?」と言われます。
私は断言します。全く違います、と。
このコンテストは生産者のモチベーションアップ及び消費者へ宣伝効果が期待されていますが、私自身は「『ゆめぴりか』の可能性を探るコンテスト」という位置づけです。
2回の参加を通じ、「同じ『ゆめぴりか』でも様々な『美味しさ』がある」ことに私は驚きを禁じ得ませんでした。そして消費者はまだまだこういった「ゆめぴりかの奥深さ」に触れていないわけです。
もし私が体験したことを消費者にも広く感じてもらえれば……
もっともっと「ゆめぴりか」の楽しみ方、消費の仕方が増えていくのでは? と思うのです。
「北海道米はやっかいどう米」という消費者の思い込みを取り除いてくれた「ゆめぴりか」。
これからも生産者と道民の「夢」を乗せて、進化し続けることでしょう。
この記事を書いてくれた人:小池理雄(小池精米店三代目)
1971年原宿生まれ。明治大学卒業後、会社勤務を経て2006年に小池精米店を継ぐ。五ツ星お米マイスター。テレビやラジオ、新聞、雑誌、ネット等のメディア出演多数。
共著「お米の世界へようこそ!」(経法ビジネス出版)