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「令和の米騒動」その背景と課題

「令和の米騒動」は徐々に落ち着き、スーパーの棚ではお米が潤沢に並ぶようになってきました。

その棚を見て安心した消費者は買いだめを止め、各地のお米屋さんに殺到することもなくなったのです。
一見、平穏を取り戻したかのようなお米の世界ですが……。

実は産地ではかなり熾烈な出来事が起きているのです。

新米の季節なのに高い原因とは

……とここまで大げさに書かなくとも、スーパーに行けば実感できると思います。
その値段の高さに……。

「令和の米騒動」のさなか、やっと出てきた新米を見て消費者は言います。「お米は出てきたが5㎏3,000円もする。これでは高くて手が出せない」と。……3,000円が高いか安いかは別として、今ではそんな話も可愛く感じるほどです。
今ではあちこちで3,000円超えのお米がずらりと並んでいる始末です。

そう、新米時期が本格的になろうとしている10月頭であっても、お米の値段は落ち着きません。

以前も触れましたがお米の値段の決まり方は大きく分けて「相対取引」と「スポット取引」の二つがあります。

ただ、どちらもスタートは
「生産者からいくらで買うか」です。

そしてそのスタートは、各地のJAが「ウチはこれくらいでお米を買うからJAに売ってね」と生産者に声掛けする「概算金」の値段によっておおよそ決まるのです。
「概算金」は、前年の価格、今秋の生産量見込みや消費動向を見てJAが決めるのですが、その価格自体が3~4割くらい上がっているのです。

……ところが生産者も生活がありますから、仮にJAよりも大幅に高い値段で買ってくれる民間業者(商社とか現地の集荷業者など)があればそちらにお米を販売します。この辺りは各生産者とJAとの付き合いの濃淡にもよるのですが、普段は多少の金額差であればJAに販売していた生産者も、この秋に限って言えば民間業者が大幅な高値提示をするため、そちらに販売してしまいます。
となるとJAも売るものがなければ商売に支障をきたすので、各地のJAはそれに対抗して概算金をさらに高くしてお米を集めているのです。

弊社ではいくつかの生産者とお付き合いしています。中には「今の高値は異常だから。うちはそこまで上げませんよ」「お金になびくような売り方は嫌いだ。小池さんとの付き合いを大事にしたい」「ウチはいつでも値段は変わりませんよ。まあ送料分くらいは上げますけど」といった生産者もいる一方で、「いやもう相場がこれだから。相場にプラス○○○○円ね」といって信じられない値段を平気で言ってくる生産者もいます。
そして……世の中の大多数の生産者が後者のスタンスのため、お米の値段は止まるところを知らず、今では昨年の6割~倍くらいにまで上がっているのです。

誤解を恐れずに言えば、今現場では「札束による殴り合い」が行われており、産地からお米がどんどん減っているのです。

なぜ、新米の季節になりこれからお米の量が増える時期だというのに、このような現象が起こっているのでしょうか?
それは各業者が「『令和の米騒動』の轍は踏むまい。まずは量を確保しなければ!」ということで来年の分まで買い漁っているからです。つまり、今の市場の動きの中で「スポット取引」における値段の下落は期待できないため、「相対取引」を推し進めているのです。

そしてこれをさらに進めるとどうなるか……。
そう、来年の夏前までにはまたお米が足りなくなる可能性もあるのです。

「令和の米騒動」は目に見えるパニックでしたが、その騒動は一般消費者だけではなく、B to Bのプロたちにも大きな影響を与えました。そしてそのパニック状態が川上の方では、いまだに続いているのです。

もちろん、このままだとあまりの高値のため、一般消費者がお米の購入を控えるようになり、スーパーのお米の回転率が極端に悪くなり、お米の消費スピードが落ち……。いっぽうで産地からはじゃぶじゃぶお米が出てくるようになれば……お米の値段は落ちます。
そう、そういった未来も考えられるので、あまり厳しいことばかり綴っても仕方ないのですが、それでも個人的には中長期で見てもお米の値段が大幅に下がることは考えにくいと思います。

それは産地の現状を見れば分かります。
生産人口の減少であり、生産者の高齢化であり、政府の生産調整の影響であり……。その辺りは次回、述べていきたいと思います。

この記事を書いてくれた人:小池理雄(小池精米店三代目)
1971年原宿生まれ。明治大学卒業後、会社勤務を経て2006年に小池精米店を継ぐ。五ツ星お米マイスター。テレビやラジオ、新聞、雑誌、ネット等のメディア出演多数。
共著「お米の世界へようこそ!」(経法ビジネス出版)