コシヒカリのブランド米。群馬県川場村「雪ほたか」
皆さんも聞いたことがある
「ブランド米」という呼び方。
実はこの「ブランド」となっている名称は、お米の品種名そのものの場合もあれば、品種名とは別のネーミングの場合もあります。
前者については「コシヒカリ」や「ひとめぼれ」「あきたまち」といった誰もが知っているような有名な名前のお米が挙げられます。
また道府県レベルの自治体が開発及びPRに力を入れているオリジナル品種……例えば「ゆめぴりか」(北海道)、「つや姫」(山形県)、「いちほまれ」(福井県)などもこれに含まれます。
後者については、例えば品種は「コシヒカリ」なのに米袋の表面にはそのようには書いておらず「○○米」という別の名前を名乗るケースです。
今回は、その中でも業界内で有名な「雪ほたか」をご紹介したいと思います。
「雪ほたか」とは群馬県川場村で栽培されている「コシヒカリ」のブランドです。つまり、品種名は「コシヒカリ」、ブランド名は「雪ほたか」というわけです。
以前書いた記事(下記リンクをご覧ください)でも触れましたが、群馬県はお米の栽培の観点から非常に面白い県です。
県自体はあまりお米に注力しておらず、「オリジナルブランド米」の開発には見向きもしないのですが、いっぽうで県内の中山間地では昼夜の寒暖差や豊富な雪解け水など美味しいお米ができる条件が整っているため、各地にお米で名をはせた個人や集団が点在しているのです。
「雪ほたか」名前の由来
例えば、みなかみ町はお米コンテストでは常連の産地です。
沼田市では個人で「小松姫」という高級ブランド米を販売している人がいます。東吾妻町でも米作りが盛んで、「さくや姫」というブランドを立ち上げており、先日私も生産者の勉強会で講演をしてきました。
そして今回ご紹介する、群馬県の川場村の「雪ほたか」。
その名前は村に隣接する武尊山に積もる雪とお米の白に由来しています。
村内にある道の駅「川場田園プラザ」は、ある会社が企画した「全国道の駅グランプリ」で見事1位に輝いたことがります。
その理由の一つが、村内で栽培・製造される農産物や食料品の数々が評価されたことがあるのですが、ここからも川場村がいかに豊かな土地であるかうかがい知ることができます。
実はこの川場村のお米が非常に美味しいことは地元では有名でした。ただ、その美味しさが果たして、全国的に通用するレベルのものかは判然とはしていなかったのですが、しかし平成の大合併でも村として存続することを選んだ村民としては、農産物をブランディングすることこそ村が生き残る道であると考え、まずは良質米として知られていたお米に先陣を切ってもらう……という戦略に出たのです。
そして出品した「お米日本一コンテスト」や「米・食味分析鑑定コンクール」。ここで数々の優秀な成績を収めたことから自信をつけた産地は、ブランディングに力を入れ始めたのですが……。
「米専業農家」ではないのに受賞!?
驚くべきはその評価されたお米を栽培した生産者たち。
なんとお米だけを栽培している、いわゆる「米専業農家」ではなかったのです。コンクールで賞を取ったお米は「特に厳選して出品したわけではない」というから驚きです。
栽培方法で何か統一的なことを行っているわけではなく、各自が自由に栽培しているだけなのですが、それでも食味計で80以上のスコアを叩き出すという、これこそが川場村の栽培環境のすごさを物語るものです。
前述した中山間地の特徴……昼夜の気温差が大きいことや、雪解け水の豊富さに加え、山を背にして南向きの地形のため日照時間が長いこと、比較的乾燥した空気が病気を防いでいることなど、この地ならではの利点もあります。そういった特徴を生かした稲作は実は弥生時代からこの地で続いているのです。
お米の世界ではブランディング自体が目的になってしまい、肝心な味が置いてけぼりになる事例が多いのですが(特に大きな行政が主導するとそういった場合があります)、しかし「雪ほたか」の事例こそ、本当に美味しいお米こそがブランディングに成功するという好例なのです。
この記事を書いてくれた人:小池理雄(小池精米店三代目)
1971年原宿生まれ。明治大学卒業後、会社勤務を経て2006年に小池精米店を継ぐ。五ツ星お米マイスター。テレビやラジオ、新聞、雑誌、ネット等のメディア出演多数。
共著「お米の世界へようこそ!」(経法ビジネス出版)