令和の米騒動の正体
昨今、お米不足で世間がかなり騒がしくなっています。
スーパーの棚からお米が徐々に少なくなり、困ったお店が対策として「お米は一人1袋まで」といった張り紙をするので、余計に消費者は焦って買いだめに走り……。
その結果、スーパーの棚からお米は消え、それを見てさらに焦った消費者が今度はお米屋さんに駆け込むようになり、全国のお米屋さんはパニック状態に……。
今起きているのは、こんな状況です。
「令和の米騒動」で感じた諸々の課題
この飽食の時代……。
「食べ物が手に入らなくなる」ことはあまり考えられません。
それでも例えば、輸入に頼っている食品や、野菜や魚介類などの季節物ならまだしも、「お米は100%自給できる農作物」で「いつも余って困っている農産物」です。さらに「保存がきくためいつでも手に入る」し、「日本人にとっては欠かせない主食」なのです。
それが買えなくなる事態……というのは
間違いなく尋常ではありません。
今回の「令和の米騒動」で、筆者も様々な経験をしました。その経験から感じた諸々の課題について、いくつか述べてみたいと思います。
そもそもなぜこのようなことになったのか?
……これについては、以前こちらのサイトでも記載しましたので、内容はそちらをご参考頂ければと思います。
①消費者が知らない「新米時期」
今回の騒動では「消費者が新米の時期を知らない」ということが浮き彫りになりました。
確かに以前のように秋に一気に新米が出るのではなく、早場米を中心に、秋になる前から新米が出てきます。そのため日本人は新米の時期について、以前ほど意識する機会がなくなってきたのだと思います。
騒動が起きた9月直前は新米が出たばかりの時期であり、古米がほとんど終わりの時期でもあります。そのためこの時期(これを「端境期(はざかいき)」と呼びます)は、お米の流通量は減るのです。
今回の米騒動はメディアが「スーパーの棚からお米が消えた!」と盛んに煽ったという面もありますが、そもそも消費者が「今は新米時期だからお米の流通量が少ない」ことを理解していれば、メディアに踊らされることもなかったのです。
②買いだめに走ればお米は少なくなる
筆者は米屋を継いで16年ほど。
そのため「平成の米騒動」は実体験としては希薄なのですが、2011年の「東日本大震災に伴うお米パニック」は体験済みです。
週末の地震のあとスーパーの棚からお米が消え、その後、週明けから信じられないくらいの来客により弊社の在庫は空になってしまったのです。
……しかし「在庫が無い」とはいっても、それは弊社の狭い倉庫の中の話。
産地には予約してあるお米がたくさん残っていましたが、その仕入れが間に合わないくらいにお米の注文が殺到したのです。
そう、お米に限らず、企業は普段の販売数量を予測しながらモノを製造します。その予測を大幅に超えた消費が発生すれば、当然在庫は無くなります。実際に世の中にお米がある・無い以前の問題で、需要に供給が追い付いていないだけなのです。
「買いだめをやめて欲しい」と販売業者が切に訴えるのはそのためです。それでも日本人は、ことお米に関して言えば同じことを繰り返しているのです……。
③買いだめしたお米ってどうするの?
端境期に買いだめするとどうなるのでしょう?
お米は農産物であり生鮮食品です。ただでさえこの尋常でない暑さの中、常温で置いておけばすぐに品質が劣化します。
そして……もうすぐ新米の時期です。
もちろん最近は古米といってもその流通過程できちんと温度管理されていますので、昔ほどお米の品質が劣化することはありませんが、それでもこれから新米が溢れるくらいに市場に出てくるのに、なぜ必要以上のお米を買ってしまって、新米に出会う時期を自ら遅らせるのでしょうか? 本当に残念です。
ちなみに……買いだめしたお米にまつわる話でよく受ける質問が「お米っていつまで食べられるのでしょうか」です。
お米は先述したように野菜や魚、肉と同じ生鮮食品です。加工品ではないので法律で決まった消費期限はありません。そして他の農産物と同じく、見て・触って・匂いを嗅いで、平気だと思ったら食べてください。ダメなら食べないでください。ただそれだけの話なのです。
さて……次回ですが、今お米の値段が上がっています。
その背景と課題について論じてみますね。
この記事を書いてくれた人:小池理雄(小池精米店三代目)
1971年原宿生まれ。明治大学卒業後、会社勤務を経て2006年に小池精米店を継ぐ。五ツ星お米マイスター。テレビやラジオ、新聞、雑誌、ネット等のメディア出演多数。
共著「お米の世界へようこそ!」(経法ビジネス出版)